フィールドワークで訪れて印象に残った場所や、気づいたこと点はありますか。

佐藤(和)

中間貯蔵施設に行き、震災当時のままに残された家屋も見学させてもらいました。住まれていた方の思い出が詰まった家具や、家の中にイノシシが入って荒らされたままの光景を見て、復興はまだ道半ばと感じました。その時の経験が、デザインで思い出や時間をつなげようと考えるきっかけの一つになりました。

デザインするにあたり、苦労した点や工夫した点はありますか。

佐藤(和)

時間が限られていたため、授業の合間や休みの日を使うなどの時間的な苦労はありました。また、私たちは被服科ではないので、型紙づくりや縫製に試行錯誤しながら取り組みました。

西塚

記念品の製作では紅白幕と緞帳を使いました。それぞれの素材の特性を理解して、材質に合ったデザインを考えなければいけませんでした。当初、記念品のアイデアの一つとして布封筒を検討していましたが、布の材質を考えて最終的には「包み布」を作ることになりました。ペンケースには丈夫さも必要であるため、厚みのある緞帳を素材に選びました。巾着は裏地をつけると、強度が増して見栄えも良くなるので、紅白幕を使用しました。

小松先生

デザインはすべて学生たちで考えました。巾着と包み布の製作は学生が担当して、ペンケースの製作はフレックスジャパンさんにお願いしました。デザイン・製作の各段階でさまざまな課題はありましたが、学生たちは積極的に意見交換をしながらかたちにしていきました。

郡山女子大学短期大学部地域創生学科の皆さん

ペンケース・巾着・包み布にするという、デザインコンセプトはどこから生まれましたか。

菅野

ペンケースのデザインコンセプトのもとになったのは、双葉町の国指定史跡「清戸廹横穴墓」 の壁画です。渦巻の模様が描かれた特徴的な壁画です。フィールドワークの中で、双葉町のみなさんにとって象徴的なものであるとお聞きしました。そこで渦巻をペンケースのデザインに取り入れることで、ペンケースを使っているときに清戸廹横穴墓の壁画ひいては双葉町のことを思い出してもらえると思いました。

ペンケースはロール型になっていて、横から見ると渦巻に見えるようにデザインしました。渦巻をうまく表現するために、小松先生やみんなと話し合いながらデザインを改良していったことが印象に残っています。

久保田

巾着は、双葉町の復興のシンボルでもある「双葉ダルマ」をヒントにしています。日常でも身近に使え、布で作れる巾着を思いつきました。ダルマの顔を付けたらかわいいと思い、ダルマの刺繍を入れました。刺繍の製作にはフレックスジャパンさんにご紹介いただいた刺繍会社の昌藤さんにご協力をいただきました。

西塚

「包み布」は、フレックスジャパンさんが「思い出のリメイク事業」を双葉町で行うという話がヒントになっています。私の中で「思い出」を考えたときに写真や手紙が浮かび、そういったものを入れるための封筒がいいじゃないかと当初は考えました。中間発表の時に環境省や双葉町、フレックスジャパンなど様々な方と話すことで、「包み布」や「袱紗」として広い用途に使えれば、記念品がまた別の誰かに受け継がれていくのではないかという考えが浮かびました。

小松先生

「記憶をつなぐ」「思い出をつなぐ」というキーワードがプロジェクト全体で出ていました。西塚さんからは思い出を届けるということで当初は「封筒」というアイデアが出てきました。しかし、封筒の製作には素材の加工技術的にも時間的にも難しいことから、解釈を拡げて、「包み布」あるいは「袱紗」として使える一枚の布という提案に決まりました。