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環境再生
ツアーレポート

環境再生 農業ツアー

アイと福島 〜食べて・学んで・感じよう!〜

2022.8.18(木)〜 8.19(金)
地域の新しい魅力を生み出す新しい農業へのチャレンジ

福島県の豊かな自然が生み出すさまざまな農産物。美味しい野菜や果物の裏側には、東日本大震災を乗り越え、新しい農業にチャレンジする生産者の努力があります。福島の味を楽しみながら、福島の人々の農業への思いや愛を知る。そんなツアーの様子をお伝えします。

1ワンダーファーム

ツアーのはじまりは、トマトの生産・販売を行うワンダーファームから。ビニールハウスの中で実際のトマト畑を前に、代表の元木寛さんに福島でのトマト栽培や農業の今についてお話しいただきました。

元木さんは、「震災後は東京にトマトを売ることができず、1日にトマトを1トンや2トン捨てる日々が始まってしまいました。どうせ捨てるならと避難所に配ったりしているうちに、ECサイトからの注文が増え、なんとか経営を立て直すことができたんです。しかし、周りにはいまだ壊滅的な状況にある農家も多くいました。このままではいけないと考え、産地全体を盛り上げるために、レストランや直売所、加工工場を備えたワンダーファームが生まれたのです」と語り、参加者たちはメモをとりながら真剣に聞き入っていました。

元木さんの説明を受けた後は、いよいよトマトの試食タイム。「フラガール」「アルル」「トスカーナバイオレット」「フルティカ」の4つの品種が栽培されているトマト畑を巡りました。元木さんのアドバイスを受け、それぞれが選んだトマトを試食すると、参加者からは「甘い!」「やっぱり国産は美味しい」などさまざまな声があがりました。帰り際には「トマトソフト」や「トマト味噌」など、ワンダーファームならではのおみやげを購入する参加者の姿も見られました。

日本の農家の平均年齢は68歳。10年経つとその多くが引退すると元木さんはいいます。こうした課題を前に、「若い人でもハードルの低い農業」を目指して進むワンダーファームの新しい農業の形に。参加者も目を光らせていました。

担当者コメント 元木 寛 さん

現在の農業は超高齢産業になっていて、若い人たちに参加してもらうことが必要不可欠になっています。ワンダーファームの取り組みを見て関心を持ってくれた人が農業に参加しやすいよう、ハードルの低い農業を目指して頑張っていきます。

参加者コメント

フルティカが特に美味しかったです。10年後に農家の8割が引退するという話は大きな課題で、実際に自分がどう関わっていくか、難しいテーマだと思いました。

農業は暮らしと直結している、という話が印象に残っています。農業は専門的なものだと思っていましたが、イメージが変わりました。

2天神岬スポーツ公園・アイスショップ「ウィンディーランド」

参加者たちが次に訪れたのは、太平洋に面した天神岬スポーツ公園。宿泊施設やキャンプ場、温泉施設の「天神岬温泉 しおかぜ荘」、レストランなど、福島の自然を五感で味わうことのできるレジャーエリアです。

多くの参加者が向かったのが、公園内にあるアイスショップ「ウェンディーランド」。素材の風味を大切にしたジェラートを毎日手づくりしており、焼き芋やラムレーズン、くるみキャラメル、ごま、コーヒーなど、さまざまな味のジェラートが販売されています。楢葉の風(日本酒)という、福島県楢葉町オリジナルの日本酒を使用したジェラートなどもあり、参加者は福島ならではの味わいに舌鼓を打っていました。

公園内にある展望台に登り、一面に広がる福島の海を眺める参加者の姿も。展望台から見える海岸線は目に見えてえぐれており、いまだ残る津波の傷跡を感じさせる場所もありました。

参加者コメント

地元を復興するために名産品をつくろうとしているのがいいなと思いました。実際に流された場所を見て、ここに町があったというのは、想像ができませんでした。

3とみおかワインドメーヌ

ツアー初日の最後は、ワインを中心とした新しいまちづくりを進めているとみおかワインドメーヌを見学。現地に到着すると、代表の遠藤秀文さんが参加者たちを出迎え、ブドウ畑を前に栽培している品種や概要について説明しました。

その後、遠藤さんの自宅に場所を移し、とみおかワインドメーヌが目指すビジョンに関する話題に。遠藤さんは「富岡町は元々原子力発電所が主な産業だった。震災後、富岡町に新たな産業をつくりたいという思いから、震災による避難から役場機能が町に戻ってくる前の2016年に、10人ほどの有志で事業を始めました。富岡町ならではの常磐物の白身に合う白ワインをつくったり、駅前にワイナリーを計画したりと、地元に貢献できる農業を目指しています」と語り、参加者たちもその様子を真剣に見つめていました。

ワイナリーが完成すれば、日本で最も特急停車駅と海に近いワイナリーの一つになるとのこと。ワイン好きが集う新しい名物スポットが完成する日も、そう遠くないかもしれません。

担当者コメント 遠藤 秀文 さん

ブドウづくりもようやく軌道に乗り、新しいワイナリーの準備も進んでいます。私たちがつくるワインが一つのきっかけとなって、富岡町の魅力がもっともっと伝わればうれしいです。

参加者コメント

各ツアーの内容の中で、ワインドメーヌの見学が一番気になっていたので、この農業ツアーを選びました。以前から、富岡町といえば遠藤さんの名前が挙がるほど有名な方。遠藤さんからは、地元に貢献したいという熱い想いを感じました。

4中間貯蔵施設

2日目の朝に訪れたのは、福島県内の除染作業で発生した除去土壌等を保管するための中間貯蔵施設。ここは帰還困難区域にも設定されており、事前申請をしないと入ることができないエリアになっています。

施設担当者の案内のもと、除去土壌が入った黒い大型土のう袋が山積みにされた様子を眺めながら、施設内を移動しました。

担当者からは、「この除染で発生した除去土壌は、地元の皆様とのお約束のもと、中間貯蔵開始後30年以内に県外に移動しなければいけないという法律があります。2045年までしか中間貯蔵施設に保管できません。この除去土壌の量は、東京ドーム約11杯分に相当します。放射能濃度の低い除去土壌は再生利用するなど、最終処分量を低減するための取組が重要です。ぜひこのことはご家族やお友達にも話していただきたいです。」との話がありました。除去土壌の問題は福島だけではなく、全国的な課題であることをあらためて認識しました。

参加者コメント

想像よりも広い施設で、完全に埋まっている土壌の高さに驚きました。これだけの量をまた県外に運ぶのは、とても大変なことだと実感しました。

5双葉町産業交流センター

2日目の昼食休憩は、東日本大震災・原子力災害伝承館の隣に位置する双葉町産業交流センターで過ごしました。1階にはフードコートやショップ、 2階にはレストランや展示、オフィススペースなどがあり、屋上には辺りを一望できる展望スペースも用意されているなど盛りだくさんの施設です。1階のフードコートで、地元名物「なみえ焼きそば」を注文している参加者も多くいました。

2階の展示スペースは双葉町の情報発信スポットとなっており、双葉町の概要や文化、年表、歴史、伝統、景色などの情報に加え、整備状況マップ、立地状況などのマップが置かれています。昼食後に展示を見学し、双葉町の復興について、参加者同士で話し合う姿も見られました。

参加者コメント

屋上で双葉町の景色を見ましたが、広くてひらけていて、綺麗だと思いました。ここに街ができたら、人がいっぱい来ると思うので、それが今から楽しみです。

6東日本大震災・原子力災害伝承館

東日本大震災の記憶を未来に語り継いでいくための伝承館。入口から入ってすぐのシアタールームで数分間の映像を全員で見た後に、各々のペースで展示物を見て回りました。

シアタールームを出ると、通路には福島の原子力発電所に関する年表が書かれており、地域の人々が過ごしてきたこれまでの歩みに思いを馳せる参加者も多くいました。

地震発生時やメルトダウン時、水素爆発時など当時の貴重な映像や、津波で流され、この建物の近くで発見されたという「アトムふくしまカバン」など、施設内にはさまざまな資料が展示されています。東日本大震災当時の被害の大きさを感じさせる資料を前に、参加者たちはじっと見入ったり、解説の声に耳を傾けたりしていました。

展示室を出ると、最後の通路には、震災で戻らぬ人に思いを伝える「天国への黒電話」で亡き姉に語りかけている写真や、津波で流され、回収されたランドセルの写真などのスペースが。参加者たちはその切実さにショックを受けつつも、真剣な眼差しで見つめていました。

参加者コメント

当時震災の情報についてニュースで触れることは多かったですが、実際の状況について詳しく見る機会はこれまでありませんでした。10年経った今、この伝承館に来て、改めて詳しく知ることができてよかったと思います。

震災や原子力発電所の事故によるさまざまな複合災害など、復興のためにどうしても解決しなきゃいけない問題が福島には数多くあるとあらためて確認できました。感情面での難しさもありますが、復興という大きな目標に向けて、前向きに取り組めたらと思います。

7道の駅なみえ

Linkる大熊での座談会に向かう前に立ち寄ったのは、道の駅なみえ。参加者は軽食を食べたり、おみやげを買ったりするなど、自由時間を楽しみました。

道の駅の裏側には、ラッキー公園という、ポケモンとコラボレーションした公園もありました。20分ほど遊具で遊んでからおみやげを選びに行く参加者もいるなど、人気のスポットになっていました。

他にも、地元なみえの酒造店で作った甘酒を使った甘酒ソフトや、しらすソフト、ご当地ラーメンなどが販売されており、おみやげ選びで盛り上がる様子も見られました。

参加者コメント

この道の駅が、新しい復興のシンボルになればいいなと思います。大学で震災復興について学んでいますが、実際に東北に住んでいると、近場の意見しか聞けません。これまで学外の学生と交流する機会がなかったので、このツアーはさまざまな意見に触れる貴重な機会になりました。

ラッキー公園など小さい子供も楽しめる環境があるので、家族連れにもぴったりの場所だと思いました。友達が福島で災害ボランティアをしているので、自分も興味を持ってこのツアーに参加しましたが、実際に福島の復興の様子や被災時の様子について、自分の目で見ることができてよかったです。

8座談会@Linkる大熊

他の4ツアーと合流し、Linkる大熊で行われた座談会。全ツアーのメンバーが10の班に分かれて、意見を交わすこととなりました。座談会のテーマは、「いま、私たちが福島について知り、伝えたい10のこと」。参加者は皆、ディスカッションに意欲的に取り組んでいました。

第3班は、一人ひとりがそれぞれ案をだし、そこから発表内容を深めていく形式で議論を進めました。農業ツアーの参加者からは「みんな自分ごと感が薄い。本当はみんなの問題なのに、福島だけの問題だと思っている。もっと未来のことを考えれば、何をするべきかはおのずと見えてくるはず」と、これまでのツアーでの体験を踏まえた意見も。第3班は最終的に「私とふくしま ふくしまと未来」という結論を出し、発表を行いました。

テーブルごとに回答を発表した後、ゲストとして参加した小島よしおさんは、「みんなアツい。熱は伝わるし伝播する。だから口に出した方がいい。皆さんが今日出した答えは全部正しいし、これからも変わっていくかも。それをポジティブな感情で伝えて欲しい。ポジティブな方が伝わると思う」と参加者に語りかけました。ツアーを締めくくる座談会は盛況のうちに幕を閉じました。

参加者コメント

みんな言っていることは一緒だなと思ったけど、行ってみなきゃわからない、というのが総括。福島の人たちからはエネルギーを感じましたが、中間貯蔵施設などまだまだ復興を進めていかなければなりません。ツアータイトルにもある「福島、その先の環境へ」の、「その先」という部分を、どういう風に伝えられるか。SNSだけではなく、家族や友達に、自分の言葉で伝えたいと思いました。

できれば地元の人が早く帰還できるように頑張っていきたいです。一番感動したことは、復興のために一生懸命努力している人がいっぱいいるということ。映像や写真を見ると辛いけど、一番辛いのは故郷を離れて暮らしている人だと思います。だからこそ、頑張って福島の人たちが早く戻れるようにしたいです。福島だけじゃなく、日本だけでもなく、全人類の問題だと感じました。

ツアーのまとめ

五感で味わった福島の現在地​

今回のツアーの中で、参加者たちは農業に携わる人々の取り組みや課題意識、そして福島の自然の魅力を、五感を通じて体感することができました。

福島にはたくさんの魅力的な農産物がありますが、震災や原子力発電所の事故により、思うように販売することができなくなったり、廃業せざるを得なくなったりする農家も多くいました。そうした苦境の中でも、地域のつながりや新しい試みによって、農家の方々は力強く歩みを進めています。農家の高齢化などの課題に対しても、若い世代がどう関心を持って取り組んでいくか、大きな宿題を得たツアーとなりました。

取材・文:小山 まぐま

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