栄養素が抜けてお茶にできないものも活用しているとお聞きしましたが。
長友 海夢さん
いま活用を進めているのが染物です。ゆでたりすると黒い色素が出て、触ると爪が真っ黒になるんですけど、それを染物に使っています。また、黒くなった殻は、ワビシ(和菱)というタイプでネックレス作りのワークショップなど基本的に体験コンテンツとして活用しています。他にもドライフラワーの飾りなどにも使っています。まだ試験的ですが。
お茶にしようと考えたのはなぜですか?
長友 海夢さん
まずお茶にする前段階で、最初地元の方から「食べられる」と聞いて、じゃあ食べ物として商品化しようと思いました。猪苗代湖って福島県の大きな観光資源なんですが、なぜか、これまでお土産がほとんどないんですよ。だから猪苗代湖産のお土産を作ろうと。殻をひたすらむいて、中の実を乾燥させて、真空パックにして「猪苗代湖産ひしの実」という形で販売を道の駅でしました。でも、正直「菱の実」ってみんな知らない。知名度がなくて売れないし、しかも殻をむくのが、すごく大変なんですよ。そしていろいろ調べていたら、偶然、西九州大学栄養学部の教授で、菱を研究されている方がいらっしゃって、お茶にできることが分かったのです。
初めは日本酒に混ぜるなど試行錯誤をしましたが、お土産にもなるのでシンプルにお茶に落ち着きました。「猪苗代湖産ひしの実」と出しても、「なにそれ」っていう感じなんですけど、お茶だと、「お茶か」ってなるんです。何のお茶かよくわかんないけど、とりあえず地域のお茶かってなるので。そういった意味でも、結果的に良かったのかなと。
周りの評判はいかがですか?
長友 海夢さん
ひし茶は、菱の外皮と中の果実部分、両方使っています。外皮にはポリフェノールが5種類含まれていて健康茶の側面もあります。また、実は別名ウォーターマロン(水栗)と言われています。普通にゆでて炒めて食べると、栗っぽいような芋っぽいような風味がします。ちょっと穀物風なお茶の風味もするし、結構皆さん、「飲んだことありそうでないな」、「何かに似ているけど何だろう」みたいな反応をされる方がいます。香ばしさがあって、でもすっきり飲みやすい。食事の邪魔はしないから、食事と合わせやすいとか、そういうお茶ですね。和食系が合うという人も結構います。
周辺の旅館では、宿泊客へのウエルカムサービスで、ひし茶の提供もしています。あとはシンプルにお土産として。町のお土産というのはあっても、猪苗代湖のお土産っていうのが全然ない。だから、この猪苗代湖産のひし茶を海外に輸出していくことによって、海外のお客さんを誘客、インバウンドに繋げていければと思っています。猪苗代湖産のお茶から始まるストーリーがあれば(お土産としても)渡してもらいやすいのかな、と。
ひし茶は観光コンテンツにもなると
長友 海夢さん
もともと猪苗代湖の水質悪化の要因ともなる「菱」をどうにかしようという地域課題がありました。そのアプローチとして猪苗代湖産のお土産を作ることによって、観光資源である猪苗代湖はもとより猪苗代町自体を発信していくことができました。かつ、猪苗代湖の水質保全活動の普及啓発にも繋がった。商品を通じて知ってもらい、関心を持ってもらえればと思っています。
観光コンテンツを作ることによって、猪苗代湖に来てもらう誘客に繋げていく。だから環境保全だけではなく、ちゃんと地域経済発展の部分をしっかり両方考えていきましょう、という取り組みなんです。
高校や大学の研究テーマとしても注目されているとお聞きしましたが
長友 海夢さん
「猪苗代湖の環境保全」という課題を題材にして、自分たちだったらどう菱を活用して、環境保全の啓発も含めて保全していくのか、次世代に繋げていくかといった授業をしています。高校生の場合だったら、菱をただ回収して終わりではなくて、回収して湖をきれいにした後に、自分たちだったらこの菱をどう活用するのか考えてもらう。いろいろ商品化を進めて、例えば文化祭のときに、菱の果実部分を使って「ヒシンブラン」、モンブランみたいなものを作って文化祭で提供したりとか、菱せんべいを作って提供したりとか。自分たちで新しい価値を生み出して提供するところまでを授業でやっています。